クラウンプリンセス  東カリブ海クルーズ  

    柴田典光


 プリンセス・クルーズ社のモットウは「エレガント&カジュアル」で5スタークラスの豪華客船でありながら4スタークラスの料金であることをセールスポイントにしている。
 日本では豪華客船によるクルーズは不定期で日程やコースが限られるが、カリブ海では、まさに選り取り見取りで、運賃やコース・日程が、リーズナブルで定期的に運行され自分の希望にあった選択が容易である。
 船に魅了されて以来、いつかはカリブ海クルーズと憧れていたが、本格的クルーズを味わい、世界の豪華客船が結集する雄姿をこの目で確かめるチャンスが自分にもやって来た。私はドルヒィンをイメージしたという独創的なスタイルに一目惚れし、クラウンプリンセスの東カリブ海クルーズに乗船することにした。

1日目(1991.7.20土曜日)

 成田よりデトロイト経由で約15時間の飛行時間を要し、陽光が眩しいフォートローダディル空港に降り立った。
 空港で今回の船旅仲間と合流し、プリンセスクルーズの出迎えのバスに乗り、クラウンプリンセスとコスタリビエラが停泊するエバグレイド港に到着した。初めて目にするクラウンプリンセスは総トン数7万トンながら全長は245mでQEUより50m短く意外と小さく感じられた。大型船の割に直立のファンネルは小振りである。ジャンボジェット機か新幹線100系を思わせる独特のフロントマスクは見るだけでも心踊らせてくれる。
 クラウンプリンセスはイタリアで建造されたばかりの新造船である。本来この日程は、新鋭姉妹船リーガルプリンセスの2次航であったが、就航が1ケ月遅れ、クラウンプリンセスによる運行となった。隣に停泊するコスタリビエラは、ガリレオガリレイと同型船のジェノバ〜シドニー航路に就航していた旧名称グリレモマルコー二である。27,905トンとクラウンプリンセスより小振りであるがスマートな船である。持参した池田良穂さん・山田廸生さん著の「世界の客船’85」が役に立つ。コスタラインのファンネルを見るのは、1977年神戸に入港したエウゲニオC以来で懐かしい。
 今回のクルーズはフロリダ半島のフォートローダディルを出港し、7日間かけてヴァージン諸島のサンファン・セントトーマス島とバハマ諸島のナッソーを巡り、フォートローダディルに戻るコースである。さすがに本場カリブは凄い。総トン数7万トンの本船の乗客は1596人でまさに満杯。いつもこれくらいの乗客数とのことで改めてカリブ海クルーズの人気を再認識させられた。
 案内された部屋はカリブデッキのC−261号室で、有望な日本人客を当て込んでのことか、当初申し込んだ部屋よりアップグレードしてくれていた。部屋の広さと快適をセールスポイントにしているだけに、今までに乗船した船の中で、最も広く快適なキャビンである。早速、船内偵察に出掛けたが、到るところに“Please line here”と掲示され、乗客の多さを改めて実感する。驚いたのが最上階のザ・ドーム。本来なら最も見晴らしの良いスペースなので、飛鳥のビスタラウンジのようなラウンジをイメージしていたが、100台以上のスロットルマシンが並び本格的なカジノルームになっており、ビックリ。喫水線から12層上のサンデッキ前部に配置され、見晴らしは最高である。
 カードルームには、クラウンプリンセス命名のソフィアローレンの写真が掲げられ、格調高い。パーサーズオフィスのあるフロアは3層吹き抜けになっており、両側には、宝石店、ブティック等が並び、水の流れる川をイメージしたスポットもあり、最新式の豪華ホテルにいるような錯覚に陥る。

2日目(7.21日曜日)

 プエルトリコのサンファン港に入港する7月23日朝まで、まる2日間、カリブ海をクルージングである。朝食をすませ、サンデッキに上がると、早々と大勢の人が水着で日光浴を楽しんでいる。トップレスの女性も散見され、白人の日光浴への情熱にはビックリ。自分も負けじとばかり、早速キャビンに戻り水着に着替えリドデッキに上がる。自分の部屋は船尾より3つ目の部屋なので、すぐに船尾階段より上下出来て、とても便利である。7万トンの巨艦だけに、デッキは特大で、屋外ブールが2つもあり、飛び込んでも平気な背丈より深いブールで気持ち良い。デッキチェアでボケーとしていると、フィリピン人を中心どするウエイターが、すかさず飲物の注文を取りにくる。東洋人同志のせいか親近感もあり、ついつい安易に注文してしまう。カリブ海クルーズが何故割安料金が可能か、その仕組みが理解出来てきた。船そのもののスケールメリットを生かし、出来るだけ沢山の乗客を乗せ、カジノや飲食代でお金を使ってもらうことにより、収益向上に役立てる。最も稼げるカジノを最高の場所に配置し
た理由もうなずける。
 本船のドレスコードは7晩中フォーマルが2回、セミフォーマルが1回、カジュアルが4回で今宵は、船長主催のカクテルパーティで皆、思い思いのお洒落を楽しんでいる。食事と同様、カクテルパーティやショーも2回に分け行われ、ザ・プラザにはタキシードやイブニング姿の紳士・淑女がぎっしり参集し壮観である。乗客は、アメリカ人が殆とで、カナダ・メキシコ・ヨーロッパ各国、東洋人は華僑の小集団と我々日本人2人のみでアメリカ人に圧倒されている。
 カクテルパーティ後は、船長のウェルカムディナーに赴き、約1時間半の食事を楽しむ、夕食後はインターナショナルショーラウンジで毎夜ブロードウェー・スタイルのミュージカルやラスベガス・スタイルのトークショーが繰り広げられ、期待通りの豪華な内容で、アメリカ人特有のオーバー
な拍手と喝采が一層盛り上げる。

3日目(7.22月曜日)

 前日に引き続き、終日クルージングで乗客を楽しませるために生まれてきたようなエネルギッシュなスタッフが数々の趣向を凝らしたイベントで楽しませてくれる。船上生活にも徐々に慣れ、前日の晩配付される船内新聞(Princess Patter)に一通り目を通し、興味ある催しにマークペンでマークし、翌日のスケジュールを組むのが日課となった。
 本日は、ブリッジ開放日で、他の乗客もさすがに楽しみにしていたようで、訪れた時には、見物客で一杯。ブリッジ入口にはてまわしよく、本船のデータが記載された案内書が配布され感心する。
 イタリア生まれのアントニオ船長は、愛矯をふりまき、スナップに入り、気軽に質問に答える。船長はシトマール社より移籍し、家族はオーストラリアのパースに残しての単身赴任とのことである。船内新聞の本船と世界地図との組合せのカット部分に日本が記載されていなかったので、アントニオ船長に指摘し苦言を呈したが、一笑に付されるだけで、国民性の違いを痛感。日本人だったらきっと「改善します』と言って平謝りするだろうに、殆ど気にもかけてもらえず、がっかり。(語学力不足のためか?)

4日目(7.23火曜日)

 目を覚ますと、2日ぶりに陸地が見え、やがて有名なエル・モロの要塞が見えてきた。サンファン港には、既に少々クラシックなカリーべが入港し停泊。
 オプショナルツアーでバスに乗り、市内見物に出掛け、エル・モロの要塞にも立ち寄り、大西洋の貿易風をまともに受けながら、カリブ海に繰り広げられた歴史に思いをはせた。プエルトリコは新旧2つの顔をもち、高層ビルが建ち並ぶ新市街地と宗主国スペインを思わせる旧市街地が併存し異国情緒がある。
 午後はカリブヒルトンのプライベートビーチへ直行。色群やかな各種の熱帯魚を鑑賞しながら、シュノーケリングを楽しみ、カリブヒルトンのプールで泳いだ後、日光浴するなどリッチな気分でカリブの休日を満喫した。オプショナルツアーより船に戻ると、白い大きな船が近ずいて来た。良く見ると、昨年まで世界最大であったソブリンオブザシーズで、本の写真以外では初めて見るだけに思わず興奮。エメラルド色のガラス張りを基調とした美しいスタイルにみとれてしまった。

 夕食時、突然ハッピーバースディソングと共にケーキが届けられ、周囲のテーブルメイトも祝福してくれた。今日は「OO回目の誕生日!」船で誕生祝いされるのは、自分の船旅史上、初体験で感激でした。


5日目(7.24水曜日)

 キャビンに朝日が射し込み、目が覚めるとエメラルドグリーンの海に沢山のヨットが浮かぶセントトーマスの港に着岸中であった。レンガ色の屋根と白壁の家が、緑の島に立ち並びまるでおとぎの国のようで、カリブ海クルーズの素晴らしさを実感。
 セントトーマスの港では、昨日サンファンで一緒だったソブリンオブザシーズとカリーベとまたもや再会。こんなことは、日本近海の船旅では考えられないことである。

 オプショナルツアーでは、マイクロバスに乗り、島内ドライブとショッピングを楽しむ。途中、島の高台からは、港が一望に見渡せ、沖には昨年より世界最大に復活したノルウェーが停泊。ノルウェーを初めて目にするだけに、船体の配色から一瞬QEUかと思ったが、まさしくノルウェーで感激。ノルウェーの大型テンダーポートで沖合より乗客が続々と運び出されて来る。クラウンプリンセスとソブリンオプザシーズ、カリーベ、ノルウェーの4隻が停泊する湾内は、まさに絶景。カメラのシャッターを夢中で押し続け、「僕は幸せだなあ」と思わず絶叫。4船から観光に繰り出した乗客は5000人以上で、セントトーマスの島は、にわかに活況を呈し、フリーポートとして知られ魅力的な免税店が軒を連ねるだけに観光客は、熱心にショッピングを楽しんでいた。
 PM5時30分、クラウンプリンセスはカリーベに続き離岸。次にソブリンオプザシーズ、そしてノルウェーと動きだし、まるで客船レースのようで、美しい豪華客船の姿を角度を変えながら眺められ、またしてもシャッターを夢中で押し続けフィルム1本があっという間になくなった。続々と
豪華客船が出港していくシーンに「素晴らしい」と絶句。

6日目(7.25木曜日)

 本日はバハマ諸島のナッソーに向けて終日航海である。エアコンの性能も良く静かで快適なキャビンのおかげで、船上にいることも忘れて目が覚める。殆ど揺れず振動音もキャビンに伝わって来ない。
 3日目に続きフリッジが開放されたので再び見学。6日目ともなると顔見しりの乗客も増え、会話も自然にはずむ。
 カリブ海特有の陽光の下で、前後4か所もあるジャグジーで外国人と混浴したり、日本人には人一倍親切なフィリピン人のウエイターの勧めるピナコラーダ等のトロピカルドリンクをプールサイドで、何杯も堪能し、自由で開放的な時間を満喫。
 今宵はフォーマルナイトで乗客は「エレガント&カジュアル」の心意気で日中のカジュアルウエアからドレッシーに変身し、夜に備える。本船で人気のある催しの1つが、カラオケである。日本の何年か前のカラオケブームが熱狂的なアメリカ人に浸透し、本船でも大フィーバーである。クルーズ当初、カラオケで歌を歌う人が壁に向かって歌っていたので、日本では観客に向かって歌うとアドバイスしたら、これが受け入れられ盛上がりに拍車をかけた。日本のカラオケはグループ毎で楽しみ、他のグループには無頓着であるが、本船では、皆一致団結してカラオケの一曲一曲に熱中して声援を送る。
 PM11時45分よりレストランで「ガラ・ビュッフェ」という素晴らしい飾り付けの料理や氷細工が用意され、深夜ながら大勢の人が集まって来た。私は朝からは元気、夜になると段々元気がなくなるが、アメリカ人を中心とする乗客は、夜がふける毎に元気になるようで、食欲も旺盛でディ
スコやダンスにも大ハッスルでそのパワーには圧倒された。アメリカ人は実によく食べ、よく遊ぶ。自国に誇りを持ち、人生をエンジョイしている姿に共鳴。

7日目(7.26金曜日)

 最後の寄港地ナッソーに入港。既にマーディグラとエメラルドシーズが入港しており、老船であるが、短期間低料金で若者に人気があるだけに、今までの寄港地とはガラリと変わり若者で一杯である。カーニヴアーレも入港して来て港には4隻の船がズラリと並びまるで客船のショーのようである。オプショナルツアーは双胴船のイエローバードで島巡り。浮き桟橋かと思っていたら、突然動きだしビックリ。名前の通り、黄色と白色の船体でカリプソ音楽を生演奏しながら、乗客にリンボー大会で楽しませてくれる。あいにくの雨空であるが、船の写真をとるには持ってこいのツアーで、客船群の後や前からの撮影に熱中。途中、専用ビーチで海水浴。現地人に「YAMAHA! YAMAHA!」と呼び止められたので、ナッソーでは日本人のことをYAMAHAと言うのかなと思ったら、ヤマハ製のマリンジェットに乗らないかと誘われていることに気付いた。しかし一銭も持たずツアーに出掛けてしまったため、ジェットスキーに乗れず残念。
 ナッソーもストローマーケットを始め土産物屋が沢山軒をつらねているが、セントトーマスよりも物価は若干高い。


 PM7時、フォートローダディルに向けで出港。本船での夕食はイタリア、フランス、イギリス、アメリカというテーマで各国の様式に合わせて行われ、ボーイの服装に到るまで趣向を凝らしている。低塩、低コレステロールの特別メニューも用意され興味深い。クルーズ最後の夕食として「インターナショナルディナー」がベイクドアラスカパレードと共に盛大に催された。前菜からデザートまで各国の特徴ある料理がメニューに満載されチョイス出来たが、日本科理はなく残念。是非、日本料理も加えて欲しいものである。



8日目(7.27土曜日)

 いよいよカリブ海クルーズも終わりである。目を覚ますと既にエヴァグレイト港に入港。クルーズ最後の朝食をとっていると、コスタリビエラが一週間のクルーズを終えて帰港してきた。
 1500人以上の乗客が一挙に下船するだけにロビーは乗客で一杯。キャビンのデッキ別に色分けされたタックの順に下船開始。どういう訳か自分の下船する順番は最後の方になり、クルーと共に握手をしたり、手を振りながら乗客を見送った。
 クルーズディレクターのジムが歩み寄って来た。「遠く日本からの参加有り難う。君達のような船キチの日本人が今後も沢山乗船してくれることを期待する。」
 社会情勢の変化により、日本でも長期休暇をとることの重要性と素晴らしさが認識されてきたことは、我々船キチには嬉しい限りである。典型的なジャパニーズビジネスマンである自分でも、カリブ海クルーズをエンジョイ。感電しそうに充電できた11日間のリフレッシュ休暇であった。


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