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ふなむしのひとりごと(2020)


■客船のトン数(4/20)

「飛鳥Ⅱ 総重量50,142トン」の表現は、ネットニュースでもよく見かけます。しかし「総重量」は誤りで、「総トン数」が正しい単位です。

今更ですが船のトン数には、容積で測る「総トン」、貨物の重さで測る「載貨重量トン(重量トン)」、船の重さで測る「排水(量)トン」等があって船の種類に応じて使い分けています。

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●総トン数(Gross tonnage)
船内の容積を示す値で1トン=100立方フィートと定められていましたが、過去に測定方法の変更がありその前後でのトン数の継続性を保つため、現在世界で広く使われている国際総トンは以下の式により算出されています。その結果現在では、1トン=100立方フィートとなっていないとのこと。
k=0.2+0.02log10V
t=k*V
t:国際総トン数、V:船内総容積(立方メートル)

さらに日本国内のみを運航する内航船では国際総トン数に係数を掛けたローカルなトン数が用いられていて、フェリーの様な2層甲板船では国際総トン数よりかなり小さい総トン数になっています。
例えば、全長183m、幅25mのクルーズ船 ぱしふぃっくびいなす が総トン数26,518トンなのに、それより寸法が大きい全長224.5m、幅26mの敦賀~苫小牧航路のフェリー すずらん は総トン数17,382トンです。すずらん は ぱしふぃっくびいなす より全長も幅も大きいのに総トン数は2/3です。これは ぱしふぃっくびいなす が国際総トン数で表記されているのに、すずらん は国内総トン数で表記されているためです。

●載貨重量トン数(Dead weight tonnage)
貨物、燃料、淡水(真水)、バラスト水、食料、乗客、乗員などの総重量の最大値。

●排水トン数(Displacement tonnage)
船の重量に等しい値。満杯になったプールに船を浮かべた時に溢れた水(排水)の重量と一致しています。排水トンにも複数あって乗員・弾薬・燃料・水の重量を含める/含めないの違いがあります。

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客船の飛鳥Ⅱは総トン数で表されることが一般的ですが、他の単位で表すこともできます。
総トン数:50,142トン
載貨重量トン数:8,642トン
排水トン数:30,862トン

総トン数と載貨重量トン数はwikipediaに記載されていますが、排水トン数の記載は無く飛鳥Ⅱのブリッジで調べた方の情報です。
総重量で飛鳥Ⅱを表すのであれば、排水トン数を用いて「総重量30,862トン」とするのが正しいです。

wikipediaで客船の総トン数と排水トン数の関係を調べてみました。
※排水トン数もロングトン、ショートトン、メートルトンがあって、外国船の場合どの排水トンで表記されているのか注意が必要です。以下の表の排水トン数がどの単位を使っているのか検証していません。ご了承ください。

現代の客船は大きさの割に軽くて、総トン数が排水トン数より遥かに大きいです。
船名 就航 総トン 排水トン
クイーンエリザベス2 1969年 70,327 49,738
飛鳥Ⅱ 1990年 50,142 30,862
クイーンメリー2 2004年 149,215 79,287
ハーモニーオブザシーズ 2016年 226,963 120,000

建造年が古い客船は”重い”です。タイタニック号は排水トン数の方が総トン数より大きいです。
第二次世界大戦頃に建造された客船は、総トン数と排水トン数が近い数値になります。特にクイーンエリザベス号は、総トン数と排水トン数がほぼ同じです。
船名 就航 総トン 排水トン
タイタニック 1912年 46,328 52,310
ノルマンディー 1935年 79,280 68,350
クイーンメリー 1936年 81,237 78,638
クイーンエリザベス 1940年 83,673 83,000

「初代クイーンエリザベス号は総重量83,000トン」の表記があった場合、正しく表現された値なのか、「総トン数」とすべきところを誤って「総重量」と表現したのか区別がつきません。”総重量ではなく、総トン数ですよ” などと安易に批判することはできません。

※この記事をUPした直後(2020.4.21)に飛鳥Ⅱの総トン数変更のニュースがありました。
先日完了した改装工事により総トン数が増加しました 50,142総トン→50,444総トン。302総トン分は露天風呂増設によるトン数増加と思われます。

※日本国内を運航して長距離フェリーの総トン数(国内総トン)と排水トン数の関係を調べると、両者が近い数値であることが分かりました。
総トン数が15,000トンのあるフェリーの満載時の排水トン数を調べると18,000トンでした。トラックなどの車両や乗客、船の燃料、水などを約52%積み込んだ場合に排水トンが15,000トンとなり、総トン数と一致する計算になります。


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